渡辺延寿班長編

私を育てた伊藤ハムの男たち

伊藤ハム入社初めての上司、福島県いわき市小名浜水産初代伊藤ハム社員、性格温厚、控えめで敵を作らず男気を売り物にする旧人類で私の好みのタイプ、当時の最年少班長らしく出世頭(部署は仕入課、原料課、仕込課、製造課、各課に係、班で組織される)、率先垂範で部下の面倒見がよく社員教育係、品川工場責任者として新入社員教育担当、原料処理、筋引きの先生、マトンの捌き、バショウカジキの捌き作業を教育する。

【第1話】品川工場新入社員研修 作業割り当てマトン10頭背割り分割骨抜き、筋引き、マグロの解体を教わる。新入社員はナイフ研ぎ次第で作業効率がUPする、みんな早起きしてナイフ研ぎ、休みの日でもナイフ研ぎ、早寝早起きが多く、まじめに働く連中ばかり7時には現場に入り仕事する。私は夜型なのでぎりぎり8時出勤、それからみんなに追いつくために必死でマトン処理に取り組む。

【付録1いびり合戦】仕事内容以前に私的な話題に花が咲く、岩手県出身の私を日本のチベット育ちと盛り上がる、ここで引いたら癖になると判断、ナイフ片手に作業台に飛び乗り手招きして誘うが、誰も上がってこない、延寿班長が笑いながら「降りろ」といい、目黒工場から視察に来た仕込課長が激怒、1時間説教を受ける。…のちに柏工場長になった小俣課長は厳格で朝礼時の姿勢、態度からしつけられ、いつも後ろでよそ見している私を睨み個人攻撃してくる。一番苦手なタイプ。…結局新入社員で一番性格が悪いと烙印を押される。

【付録2 延寿班長は神様】会社生活は、みんな朝から晩まで肉体労働で疲れた疲れたこんなに働かせられたら体がもたない、伊藤ハムってひどい会社だと愚痴る。私は小学校高学年から豆腐・納豆売りして小遣いを稼ぎ、中学校では、家で豚を飼っていた都合で365日雨・風・雪にかかわらず朝晩リヤカー引いて市内を残飯集めに回ってた。この程度じゃ働くうちにも入らないのに給料までもらえ(初任給16000円手取り12000円)仕事が終われば自由時間、食事は寮食堂で腹いっぱい食べられる、私には伊藤ハムは天国、可愛がってくれる上司の延寿班長は神様だと思った(素直な子供心)

【付録3夜間無断外出の常習犯】2段ベッドの4人部屋暮らし、上には秋田男鹿水産高校出の優しい杉本先輩、秋田なまりの色男で、11時寮長の就寝点呼が終わると着替えはじめ夜遊び出勤、同期の浦山君と3人で門扉を飛び越え五反田遊楽街に一直線、田舎育ちには五反田のネオン街は別世界。翌朝の朝礼で「門扉の上側に白いチョークを塗っておいた、朝見たらきれいに落ちている。誰か夜飛び越えたものがいる申し出なさい」意地悪な先輩、男らしくない所業に逆切れした…知らない振りしたが延寿班長は私の顔を見て笑っていた。

【第2話】新入社員配属決定 3ヶ月の研修を終えて、小俣課長より正式な配属が発表された。「滝浦孝和ボイル係勤務を命ずる」先輩や事務員に歓声が上がった…みんなが笑い転げるという意味が分からない。 その晩、目黒工場から寮に戻ってきた先輩連中が「滝浦どこに決まった」「ボイル係です」「わあーお前にぴったりだ」と喜んでくれた…それもよくわからないその意味が分かったのは配属先の目黒工場ボイル係の朝礼に出てからだった。 

【第3話】いまどき訳の分からない男気を振りかざす 渡辺さんはジャイアンツの大ファン、仙台での楽天との交流戦に奥様と一緒にご招待、私も見栄張って仙台ロイヤルパークホテルのダブルルームを予約してご案内しました。翌朝、お迎えに行ったところ「お前な、いい年して男と女が同じベッドに寝れるわけないだろ、無理言ってシングルに替えてもらったぞ」、「なに訳の分からないこと言ってるの、信じられない」、奥様が笑いながら「こういう人だから滝浦さんごめんなさいね」…嘘みたいな本当の話です。

【訃報】渡辺延寿当年80歳永眠 仕事に追われてご無沙汰しており、久しぶりに電話「渡辺さん、私のホームページに名前を出して昔話を全部書き出すから宜しくね」、「俺はわからないから、明日娘が来るから調べてもらうよ」、「私の伊藤ハム人生は昭和41年品川工場男子寮渡辺延寿寮長の寮生規則、新入社員のあるべき姿の訓示で始まりました。私を育てた初めての上司だから実名で書きますよ」、「そうかそうか見させてもらうからね、実はな俺は〇〇でよ、もう駄目かもよ」、「冗談じゃないからね、まだまだ私と一緒に楽しくやろうよ」、「そうだね宜しくね」これが最後の会話となりました。

【弔辞】18で伊藤ハムに入社してから70過ぎたつい最近まで、半世紀以上の長い間、いわき市小名浜から塩屋埼灯台のように、私が人生を見間違い道に迷わないように優しく足元を照らして導いてくれました。苦しい時、悲しい時は「馬鹿者、お前は男だろ、もっと前をみて上を向いて歩け」と叱咤激励し、楽しい時、うれしい時は「そうかそうか」と我がことのように一緒に喜んで優しく声をかけてくれました。だれかれ隔てなく面倒見る、こんな良い人はなかなかいないせちがらい世の中で80年間、男気を張って、是は是、非は非を貫き通して我が道を歩き続けた男。きっと天国では奥様と一緒に特等席に座って生前とおまじくニコニコ笑っているでしょうね。お幸せに。

合掌

つづく

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