石井博・中村秀人広島大学同窓コンビ編

滝浦を育てた伊藤ハムの男たち

(石井課長編)気難しそうに腕組みし首を傾げながら、自分の目と耳で知り得た事実を論ずる「現場・現物・現実主義」を実践した東北工場初代製造課長、何事も自信ありげな言いまわしでとつとつと自論を展開する広島大卒の常識を兼ね備えたインテリ管理職。私が東北工場に転属して所属長として職場を受け持って初めての上司です。

【まえがき】東北工場転勤辞令交付 広井専務がいつもの調子でニコニコしながら「滝、お前を班長に抜擢してやるから東北の新工場に転勤しろ」、専務、製造場の仕事を知らない私が新工場の製造責任者ですか、どんなことになっても知りませんよ」、心配するなちゃんと豊橋工場から石井製造課長が赴任する」、「私は石井課長の言うことを聞いていればよろしいのですね」、「言うこと聞けばないちいち気に障る言葉を吐く専務様です

(蛇足)無責任な広井専務の人事異動裏話41年入社同期の連中が広井専務に談判「なんで遊び人の滝が班長ですか、納得できませんよ馬鹿たれ、柏工場では滝を使いきれる管理職はいないだろ、滝を柏工場から追い出す最後のチャンスだぞ、新工場に飛ばすのに多少は格好つけなきゃあいつは出て行かんやろなるほど、そういう訳なら納得できます」…言う方も言う方だが言われて納得する方もする方だ。俺は柏工場にとってどんだけの悪人だよ、こんな真面目で実直な人間をつかまえてまったく失礼な話です(心の声)。

【第1話】プレスハムの結着不良多発 「滝よハムが不良品ばっかりやんか、ちゃんと結着したハム作れよ」「石井課長、魚肉のすり身ならまだしも、赤身を切り込んで造るツナギ規格にこんな旧式の低速カッターでは作れませんよ」、「無理やろな、柏工場から送ってもらうか」、翌日、柏工場から送ってもらったツナギでミキシング、「課長、ばっちりですよ」「アハハ」と笑うしかないレベルの製造工場でした。

(蛇足1)鯉の餌事件 不良品が出るとミンチして工場裏の用水池に「鯉のえさ」として提供、夜間は沈んでるのに鯉のバカどもが食い残すもんだから朝になると池一面にハムが浮いてる、朝の散歩に出た野村工場長が激怒、「バカ者」「ハイハイわかりました」朝からお年寄りのお説教です。池の鯉は私に感謝してると思いますよ(ジョークです)

(蛇足2)野村工場長激怒したもみの木事件 …東北工場の男女寮生でパーティを開催、盛り上げのために飾り付け用にツリーをセッティング、貯水池のほとりに見事なもみの木が一本鎮座していた。私から見れば格好の具材にすぎなかった。根元からバッサリ。翌朝、「滝、工場長が至急と呼んでる」。事務所が騒然として異常な雰囲気「滝、お前池のほとりにあったもみの木を切ったのか」と眼鏡をおでこにかけて激怒。(聞けば野村工場長が毎朝、散歩がてらにもみの木を眺めるのが楽しみの日課だったらしい)…切っちゃったものをいつまでも未練たらしくグチグチ怒っても仕方ないのにあきらめの悪い工場長なんだから(罪の意識が全くない心の声

【第2話】東北工場にも新型機器の導入 高速カッター、大型チョッパーが配置されて徐々に製造場らしくなった。「石井課長、ようやく工場らしくなってきましたね」「これが普通で整備するのが遅すぎたんだよ、滝よ、これからはちゃんとやれよ」。極めつけはHandtmann真空定量充填機の国内第一号機が東北工場に導入され、全国の工場に自慢の最新鋭機導入に沸いた。ロータリー式でプレートの作動で真空定量充填できる、ドライソーセージの製造品質に最適な設備増強でハムソー充填効率UPの一翼を担った。…この後、早々と石井課長は豊橋工場に帰られ一人ぼっちで地獄のような製造業務が始まった。

(中村課長面倒見がよいのは天下一品、好奇心旺盛でなんでも首を突っ込んできて、豊富な勉学知識の講演会を開催する理論訓示派課長。

【第1話】辞表を笑って破き捨てた課長さん 持病の悩み事で退社を決意、世話になった諸先輩に病気事情を説明し退職やむなしの雰囲気の中、中村課長は「今日、東北大附属病院に行き、滝の主治医の助教授を訪ねて「滝浦は会社を辞めなきゃならないほどの病気なんですか」と聞いてきた。薬を服用し続ければ死ぬ病気じゃないらしい、だから会社を辞める理由にはならないことが分かった、よってこの辞表は破かせてもらうよ」決死の覚悟で書いた辞表を破きごみ箱に捨てて笑っている。何かご意見でもこの自信ありげに私を見下ろすような態度はどっから来るのだろうと感心させられた。普段逆切れして相手に噛みつく私がおとなしく引き下がった。私の人生の岐路を左右したおもしろ上司の中で五指に入る男だった。

(蛇足)中崎専務がくれた漢方薬を両手に下げて 中村課長は西宮本社での製造会議で中崎専務に私の病気を打ち明けた。偶然中崎専務が同じ病気を抱えており、製薬会社に電話して常飲している漢方薬を大袋二つも手配、「中村、これを滝浦に持っていけ」との話、ニコニコして薬を抱えて帰ってきた。…こんないい会社は他にないと感謝感激させられ辞めるにやめられない気持ちのなった薬事件でした

つづく

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